補聴器の購入を検討している人は「補聴器はいつ使い始めたほうがいいの?」という悩みがあることも、多いのではないでしょうか。補聴器は安くても数万円することが多く、購入へのハードルも決して低くありません。以下では、補聴器の購入で失敗しないために、使うタイミングやメリット、難聴に潜むリスクについて解説します。
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補聴器を使い始めるタイミング
医学的に補聴器の使用が推奨されるのは、40db以上の難聴とされています。具体的には、日常会話に聞きづらさを感じるレベルです。また難聴は加齢により進行するため、症状が出始める年齢や症状を知ると安心です。以下では、補聴器を使うタイミングについて、医学的な目安と年齢の観点から解説します。
医学的には40db以上の難聴が目安
日本聴覚医学会難聴対策委員会(以下、難聴対策委員会)やWHOは、補聴器を使い始める基準として、40db以上の難聴であることを示しています。
2014年に難聴対策委員会が出した、難聴の程度分類では中等度難聴に当たります。具体的には、普通の大きさの声での会話で、聞き間違いや聞きづらさを自覚するレベルです。
難聴対策委員会は、中等度難聴を「補聴器のよい適応」になるとしており、補聴器を使い始めるタイミングとしています。
加齢による難聴の特徴と症状
加齢による難聴の特徴は、高音域が聞こえづらくなることです。自覚症状として、話の内容が聞き取れなかったり、うるさい場所では言葉が聞き取りづらかったりすることがあります。
自覚症状がない場合、周囲が気づきたい症状は以下のとおりです。
・聞き返しが多い
・テレビの音量が大きい
・話す声が大きい
また難聴研究所などの研究では、60代では8,000Hzの高音域が40dbの難聴に当てはまります。日本語の子音であるS、H、F、K、Tなどは高音域になるため、徐々に単語の聞き間違いが増えていきます。
70代は4,000Hzの音域が40dbの難聴です。日常会話で聞こえやすい音域が2,000Hz~4,000Hzのため、75歳以上の約5割以上が、聞こえづらさを感じてしまうという結果があります。
難聴を放置するとどうなる?
難聴はコミュニケーションや生活だけでなく、体の機能にも大きな影響をもたらします。しかし2022年の日本補聴器工業会の調査では、難聴を自覚する人の6割以上が受診していないことが明らかとなっています。
ここでは、難聴を放置する3つのリスクについて解説します。
認知症を発症しやすい
とくに中高年で発症した難聴を放置しておくと、認知症リスクが高まります。2020年にイギリスの医学雑誌「ランセット」が発表した報告書では、45歳~65歳で聴力が低下すると、認知症の発症リスクが1.9倍に高まるという指摘もあります。
人と会話しづらくなることでコミュニケーションの機会が減り、認知機能が低下しやすくなることが原因のひとつです。難聴は認知症の発症の要因として、最もリスクが高いとされていますが、最も予防できる要因としても挙げられています。
認知症の予防対策として、早めに補聴器を使うことが有効です。
交通事故に巻き込まれやすい
耳からの情報が少なくなるほど、交通事故のリスクを招きます。なぜなら人は視覚情報だけでなく聴覚情報を使い、危険を予測して回避しているからです。
近年増加しているイヤホンの使用による交通事故は、踏切の警笛などが聞き取りづらくなり、注意力が低下することが原因です。やはり周囲の危険を予測するには、視覚情報だけでは限界があります。
難聴の場合も同じように、補聴器により聴覚情報を補うことで、交通事故のリスクを下げられるといえるでしょう。
転倒する可能性が高まる
聴力の低下は平衡感覚に影響し、転倒のリスクを高めます。アメリカでは健聴の人に比べ難聴の人は、約3倍の転倒リスクがあるという報告もあります。
特に高齢者の転倒のリスクは、ケガだけではありません。転倒をきっかけに寝たきりになるリスクが非常に高まり、そのまま介護となるケースが多いのが現状です。
人は周囲の音から自分の位置情報を得て、体のバランスを保っています。転倒リスクを回避し、健康寿命を伸ばすという点でも聴覚情報は大切です。
補聴器を早い段階で着用するメリット
補聴器の効果は、耳の聞こえを改善するだけではありません。補聴器を早めに着用することで、認知症や交通事故、転倒のリスクを低下させられます。また、リスクを回避する以外のメリットも期待できます。
音の聞き取りが保たれる
早期に補聴器を使うメリットは、音の聞き取りが保たれるという点です。音の聞き取りは話や言葉を聞いて、内容や意味を理解できるかどうかに関わります。
たとえば10年以上難聴の状態で生活していた高齢者が、初めて補聴器をつけて音が聞こえたとしても、意味がわからず、雑音に感じることがあります。
これは長年聞こえづらい状態だったため、音と意味の結びつきが消えてしまっていることが原因です。早めに補聴器を着用し、音の聞き取りを保つことで認知機能の低下を防げます。
補聴器の使用に早い段階で慣れることができる
補聴器を早めに使うと、操作や取り扱いに慣れるのも早まります。耳に装着するため、補聴器はとても小さいものが多く、使用するときに細かな操作が求められます。
そのため、若い人でも最初は操作に苦労することがあるほどです。補聴器の利便性を感じても、操作が負担になると、使うのが面倒に感じてしまうことがあります。
年齢的にも補聴器を早い段階で使うことで、操作する負担を少なくするのが大切です。
まとめ
補聴器は、早めに着用するのがおすすめです。聞こえづらさで日常生活に困っていると感じたときが、補聴器の着用を考える時期といえるでしょう。医学の視点からは40db以上の難聴、年齢的には65歳以上から、補聴器を検討してもよいタイミングです。補聴器は健康のためにも大きなメリットがあります。認知機能の低下を防いだり、交通事故や転倒のリスクを回避したりする効果が期待できます。補聴器を早めに使うことで、細かな操作の負担を減らせることもポイントです。聞こえづらさを感じたら、まずは耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。医師に補聴器をすすめられたら、補聴器専門店・販売店で相談するのがおすすめです。