補聴器と集音器は、聴覚補助器具としては似ていますが、それぞれの役割や特徴は異なります。補聴器は、聴力が低下した人の聞こえを補うために、マイクからの音を加工して聞きやすい音に変えて再生。一方、集音器は周囲の音を増幅することで、日常生活での聞こえにくさを軽減する役割を果たします。本記事では補聴器と集音器を比較し紹介します。
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補聴器について
補聴器は、聴力が低下した人の聞こえを補う医療機器のことを指します。補聴器は、マイクから入ってきた音を内部で処理し、人間が聞きやすい音に変換してイヤホンから出力しています。その結果、使用者が日常生活でのコミュニケーションや活動をより円滑におこなえるようサポートしているのです。
また、補聴器は薬機法によって厳しく基準が定められており、効果や安全性の基準を満たしている機器のみが厚生労働省に認定されています。つまり、補聴器として市場に流通しているものは厳しい基準をクリアしたものといえるでしょう。
これにより、使用者が信頼性の高い製品を選択し、安心して使用できるようになっています。さらに、補聴器の重要な特徴のひとつに、個々の聴力状況に合わせた音調整が可能であることがあります。
使用者の聴力に合わせて音の周波数や音量を調整することで、最適な補聴効果を得ることが可能です。補聴器の使用に関しては、まずは医師や補聴器専門店などで相談しましょう。
また、近年ではデジタル技術の進化により、さまざまな環境での聞こえを最適化する機能や、ノイズやフィードバックを抑制する機能などが搭載された補聴器も登場しています。
このように補聴器は、聴覚障害を持つ人々の生活の質を向上させるだけでなく、社会参加やコミュニケーションの機会を広げる役割も果たしているのです。そのため、補聴器の開発や改良は、医療技術の進歩だけでなく、社会的包摂の観点からも重要視されています。
集音器とは
集音器は、周囲の音を大きくすることで、日常生活での聞こえにくさを軽減する器具のことを指します。上記で紹介したとおり、補聴器は厚生労働省に認定されたものですが、補聴器として認定されていないものは呼び方がさまざまあります。
そのひとつに集音器が該当します。補聴器と異なり、集音器は医療機器ではなく、価格帯も比較的安価で購入可能です。そのため、家電販売店や通信販売などで気軽に入手できます。また、集音器も高齢者や聴覚に問題のある人にとって便利な補助具として利用されています。
周囲の音を増幅することで、テレビやラジオなどの音声や会話をより明瞭に聞くことができるため、日常生活のなかでのコミュニケーションや情報収集が容易になります。ただし、集音器は補聴器とは異なり、厳密な音質調整や個々の聴力状況に合わせたカスタマイズができない場合があります。
また、医療機器としての安全性や効果についての保証も補聴器と比べると限定的です。それでも、集音器は手軽に入手できることから、一部の人にとっては有用な補助具となっています。
とくに、高価な補聴器を購入することが難しい場合や、軽度の聴力障害に対応する場合には、集音器が選択肢として考えられるでしょう。しかし、使用する際には医師や専門家のアドバイスを受けることが重要です。
補聴器と集音器の違い
補聴器と集音器は、聴覚の補助具としての役割を果たす点で共通していますが、いくつかの重要な違いがあります。以下にくわしく紹介します。
医療機器かどうか
まず、補聴器は医療機器として認定されていますが、集音器は医療機器ではありません。補聴器は厳格な基準を満たして製造され、使用者の聴力状況に合わせて適切に調整されます。
一方、集音器は医療機器の基準を満たしていない場合があり、製造や販売に規制が緩い傾向があるので注意しましょう。
フィッティングが可能かどうか
次に、補聴器は使用者の耳の形や聴力状況に合わせて専門家によってフィッティングされます。聴力検査やカウンセリングを通じて、最適な補聴器が選択され、調整がおこなわれます。
一方、集音器は一般的にフィッティングなどのサービスがなく、家電販売店や通信販売で購入してみないと付け心地はわからないものが多い傾向です。
機能の違い
補聴器と集音器は機能に違いがあります。補聴器は利用者の耳の状態にあわせて調整することで、機能を最大限引き出すことが可能です。一方、集音器は利用者の耳の状態に合わせて調整する機能がありません。
補聴器に備わっている機能は以下のとおりです。
・ボイスフォーカス機能
・広帯域機能
・チャンネル数機能
・シーンセレクト機能
・ハウリング抑制機能
・風邪雑音抑制機能
・環境騒音抑制機能
・聞こえやすさ・聞き取りサポート機能
補聴器の種類によって備わっている機能は異なりますが、利用者が快適に過ごせるよう複数の機能が備わっています。耳の状態を確認してから種類の選択や機能の調整を行うため、機能がより発揮できます。
一方、集音器は聞こえに合わせて音を調整する機能はなく、音の高低を変えるといったものです。集音器に備わっている機能上、あらゆる音を大きくしてしまうため、大きくする必要のない車やバスなどの交通騒音も一緒に大きくしてしまうのです。
結果、使用中に不快感を感じやすくなり、使用をやめてしまう方もいます。複数の音の中から必要な音のみを選び出し、聞こえるようにしたいなら補聴器がおすすめです。
安全性の違い
補聴器と集音器は安全面でも違いがあります。補聴器は厚生労働省で定められた効果や安全性の基準をクリアしている医療機器です。難聴者を対象に作られています。
また、医療機器の中での管理医療機器に分類されるため、販売するための届出や許可、管理者の設置義務、有効性や安全性の配慮も必要です。さらに購入後は定期的なアフターフォローがあります。使用中の不具合や聞こえの調整、電池交換などさまざまなサービスが受けられるため安全・安心です。
アフターフォローは補聴器専門店で行う場合もありますが、提携している耳鼻科で行っていることが多いです。耳鼻科で行う場合、耳の診察を終えてから補聴器専門店によるアフターフォローといった流れになります。耳の診察とアフターフォローが1度に行えれば利用者の負担だけでなく、付き添いの家族の負担も軽減できます。
一方、集音器は家電製品であるため、補聴器のように効果や安全性の基準をクリアするといった条件は販売する上では必要ありません。なかには難聴者を対象として作られていないものもあります。利用者の耳の状態に合わせて購入していないため、合わなければ使用し続けるのが難しいです。
細かい調節機能がついていないため、雑音や騒音も大きくなり、耳に負担がかかってしまう可能性もあります。また、購入後に定期的なアフターフォローもありません。より安全・快適に利用したいという方は補聴器の購入がおすすめといえます。
価格の違い
補聴器は高度な技術や機能を搭載しており、個々の聴力状況に合わせたカスタマイズが可能です。そのため、価格も比較的高価であることが多いです。一方、集音器は製造や機能が簡素であり、価格も補聴器よりも安価で購入することができます。
以上のことから補聴器と集音器の違いをまとめると、補聴器は医療機器であり、使用者の聴力に合わせたフィッティングがおこなわれ価格は比較的高価です。
一方、集音器は医療機器ではなく、フィッティングはおこなえないものの安価で購入することができます。使用目的や個々の状況に応じて、適切な補聴器や集音器を選択しましょう。
補聴器と集音器のどちらを選ぶか検討する際のポイント
ここからは、補聴器と集音器のどちらを選ぶか、検討する際のポイントをご紹介します。
・聞こえの症状の度合い
・自分の希望に合わせて考える
・迷ったら耳鼻科に相談し、判断を委ねる
1つずつ詳しく解説します。
聞こえの症状の度合い
ポイント1つめは、聞こえの症状の度合いです。家族との会話に入れなくなったり、聞き返しが多くなったりと日常生活に支障が出てきた場合は補聴器の検討がおすすめです。
耳の聞こえは自分だけでは気が付かないことも多いため、一緒に住んでいる家族に最近の様子を聞いてみてもいいでしょう。また、耳鼻科のサイトや補聴器専門点のサイトに掲載されている「聞こえのセルフチェック」を試してみるのも手です。
耳の不調は放置してしまうと、家族との会話に入れないことから疎外感や孤独感を感じやすくなります。人との会話を諦め、楽しめなくなるとうつなどの病気のリスクが高まることもわかってきています。そのため、客観的な視点も交えつつ、冷静に判断することが重要です。
自分の希望に合わせて考える
ポイント2つめは、自分の希望に合わせて考えることです。家族との会話を楽しみたいや特定の音だけを聞こえるようにしたいなどの希望があれば、補聴器の購入がおすすめです。
集音器は特定の音だけを大きくする機能はなく、全体的な音を大きくします。そのため、家族の話し声を大きくしようとすると、自動車やバスなどの騒音も一緒に大きくしてしまうことになります。購入しても使用をやめてしまう人がいるのはこのためです。
一方、補聴器なら特定の音だけを大きくする機能が備わっているため、人の話し声だけを聞こえるように設定できます。自動車の騒音などの不要な音はそのままであるため、使用中に不快感を感じることが少ないです。
【これがおすすめ】迷ったら耳鼻科に相談し、判断を委ねる
ポイント3つめは、迷ったら耳鼻科に相談し、判断を委ねることです。補聴器か集音器のどちらかで迷ったら、耳鼻科に相談するといいでしょう。耳鼻科であれば聴力検査や医師による診断をもとに、今の耳の状態に適した方法を教えてくれます。
たとえば、耳の聞こえが悪く、自己判断で補聴器を購入したとします。しかし、耳の診察を受けてみたら聞こえを悪くしている原因はほかにあったということもあるからです。反対にそこまで耳の聞こえが深刻ではないと思っていたが聴力検査をした結果、聞こえが深刻だったということもあります。
耳の聞こえは自分で判断するのは難しい場合もあります。聴力検査であれば今の耳の状態を数値化し、より的確な判断をすることが可能です。より専門的な診察を受けたい場合は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会認定の耳鼻科医が在籍する耳鼻科を受診するといいでしょう。
専門的な知識を持っているため、より納得のいく受診が受けられます。また、難聴として身体障害者の認定を受けた場合、補聴器購入に一定額の費用が支給される「公費負担制度」が受けられます。公費負担制度を受けることで補聴器購入の負担を少なくできますので、お住まいの自治体に相談してみましょう。
まとめ
補聴器と集音器は、聴覚の補助具としてどちらも重要な役割を果たしますが、それぞれの特徴や使い方には違いがあります。補聴器は医療機器として認定され、個々の聴力状況に合わせた専門家のフィッティングが可能。一方、集音器は医療機器ではなく、手軽に入手できるものが多いです。補聴器の使用に関しては、まずは医師や補聴器専門店などで相談しましょう。自身の聴力状況や生活スタイルに合った補助具を選ぶことで、より快適な生活をおくることにつながります。